Another Moon Whistle


 純粋悪の存在が無い、と言うことに触れたが、
絶対的な悪が果たして身の回りに存在するだろうか。
そして、絶対的な正義も。
Xレンジャーは絶対的な正義を信じて疑わない存在である。
だからこそ、少年Aは独善的な彼らを嫌っているのである。
 例えば殺人は何故悪なのか?
では殺人は悪なのに何故正義の味方は敵を「倒して(殺して)」いるのだろうか。
そこで「悪の正当化」がされている。
主人公達も、過去に起きた自分の罪を、罪悪感を持っているかもしれないが、それを正当化している部分もある。
それがこの物語の正義と悪の奇妙な倒錯を表現している。
 一般的にこのようなゲームでは主人公は絶対的な「善」である事が多いのだが、
主人公達は何らかの闇を心に抱いている。
悪を打ち砕く、といいながら自分の過去に行った悪を正当化する。
罪悪感を抱いてる場合もあるが、それから目を背ける為に正当化する。
罪を犯した、と言う現実から「目を背けておく」べきか「対峙する」べきか。
そして、どちらにしても罪を償うべきか否か、も問題となっている。
罪は償うべきだ、と言うのもあくまで表象であり固定概念である。
その理由を説明できる人はいるのだろうか?
少なくとも「それが摂理だ」「償って当然だから」という理論は理論ではない
先ほどの殺人が悪、と言う無条件の理論と同じように。
マックスとエイドスのどちらの主張を選択するか、と言う選択はそれを表している。

 少年Aという名前の無い存在。
それは今の社会で名前も無いまま、自己主張が出来ないまま消えていく少年達を表している。
ニュースでは「少年の心の闇」の一言で片付けられ、
彼らがなぜこのような行為をしたかにもっともらしいレッテルを貼る。
少年たちの叫びはそうして封印されていく。
 同様に、隠しイベントに登場する子供がいるのだが、彼の考え、言動に寒気を覚えた。
例えば男の子は自分は万能である、という感覚がどこかにあるという。
それが否定された時、または自分が平凡な人間であると気付いたとき、
自己主張としての「少年犯罪」が起きると言う事も一部としてはあるらしい。
では、この子供が意味するものは何か。
少年Aが万能になった(と思い込んでいる)人間であるのに対し、
万能でない万能な人間のシンボルに思えてならない。
そこに、計り知れない恐怖を感じた。
この二人が一つの対となって物語のコアに存在している。
 万能な存在、その象徴として登場するムーンホイッスル。
その代償よりも何よりも、その万能性が彼らの目にどう映るのか。
自らの万能性の証明に、自らの完全な自己主張のために。
少年Aはそれを使い続けたのだ。
そこにこの子供と少年Aとの共通点が見れる。
自分の中に、彼らのような感情がないと言い切れるだろうか?

 しかし、いくつか気になったところがある。
おもてのレビューでもかいたが、まずはダークムーンの存在。
この「純粋悪」であり、Xレンジャーの敵である彼にもう少し倫理観を持たせても良かったのではないか。
あの存在一つで結局目に見えた悪ができてしまったため、
その一点で物語が薄くなってしまったように見える。
何がしたいのか、その理由が見えなかったためにその部分だけがぼやけてしまったように思える。
例えばMOTHER2のギーグが絶対悪となりえたのは、逆にギーグの描写を完全に排除したためである。
この場合はただの悪の記号として存在させている。
 では、ダークムーンはどうか。
さまざまなところでダークムーンの具体的な影響、更にはXレンジャーの敵として存在している。
そのため、悪の記号とするには情報が逆に多すぎるように見える。
完全に排除するか、しっかりとした倫理観を持たせれば、それだけで深みが増すと思う。
 もう一つは最終段階におけるカズトママとかつみの「悪」の部分の描き方。
カズトママは急に考え方が暴走してしまい、プレイヤーがおいていかれる状態となる。
それを狙うにしても、何らかの伏線がもっと必要だったように見える。
離婚云々の会話のワンシーンだけで彼女がこうなるであろうことは予想できなくもないが、
もう一回くらいは似たような描写を入れても良かったと思う。
 そしてかつみのダークムーンに乗っ取られた後のセリフ。
インパクトを持たせるためかもしれないが、あまりにも口が悪すぎるような気がする。
例えば最初の方で同じような事を言う、などをすれば少しはその印象が抜けると思う。
全てはダークムーンの位置付けが中途半端だったことに起因しているように見えるが。

 最後に、このレビューを読んで、更にゲームをクリアした貴方に問う。
「何故人を殺してはいけないの?」
明確な答えをつかむ事が出来ただろうか。


 今回このレビューを書くに辺り、サスケさんの後押しがあったためにこうして公開するに至りました。
有難う御座いました。
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