パレット

ジャンル:アドベンチャー
プラットフォーム:Win95/Win98(RPGツクール95作品)
作者:西田好孝さん
種別:フリーソフト(A-CON4入賞作品)
ダウンロード先:A-CON4公式ホームページ
入賞歴など:A-CON4 グランプリ(1,000万円)

ゲームの内容:売れ筋の心理学者「シアン」がある夜、原稿を書き上げ 事務所を閉めようとしたときに、奇妙な電話がかかってくる。電話の主は 事件によって視力と記憶の大半を失ってしまった少女「B.D」。
シアンは、彼女の失われた記憶を呼び戻して欲しい、と扉越しに銃で 脅されつつ、その依頼を遂行すべく電話越しに彼女に語り掛けていくので ある・・・・。


レビューではなくインプレッション

まず、最初に断っておきます。本来ならゲームのレビューというのは あくまで「そのゲームについて主観的に」行うものであって、 「周りの評判は云々」みたいな客観的意見は極力排除すべきでしょう。 しかし、このゲームに付いてはそういった客観的意見を取り入れた、 いわゆる「インプレッション」の形でやりたいと思います。
なぜならこのゲーム、僕的に見ると、世間では 評判だけが一人歩きしている感じが 否めない気がするのです。こういった状況ゆえに、 ゲームの内側だけに目を向けて批評するのだけでは不十分で、 外にも目を向けて、実際のゲームと評判のギャップ、 相違点などを述べていくのが適切と判断したわけです。

周りの評判

このゲーム、A-CON審査員達のコメントには、 「操作しているだけで楽しい」「商品化出来るだけの面白さ」 といった「絶賛」のものが多数でした。また、 一般のコメントでも、「効果音を使った演出がよい」 「赤と言う色をうまく使っている」といった好意的な意見が ありました。
しかし、グランプリだけあって、プレーしている人も多く、 そうなってくると出る杭は打たれるというか、必然的に批判的な 意見が出てくるものです。特にこのゲームでは「中だるみがする」 「一千万はやりすぎでしょ。」というタイプの批判が聞かれました。
確かに完成度の高いゲームと比較するといろいろとバグがあったり 手落ちがあったりするのは否めません。それではこのゲームは本当に 「一千万はやりすぎ」なのでしょうか。検証していき、最後に僕自身の 意見も述べたいと思います。 (とある掲示板で「(パレットよりも) Moon Whistleの方が断然面白い!」という書き込みを見て、作者として なんとも複雑な気分になりましたが。)

ホラー系?推理系?

まず、ゲームの性質について考えます。作者はこのゲームで プレイヤーをどういう世界に誘おうとしたのでしょう?
一般的な意見としては、このゲームは「ホラー系」に 分類されると言うことです。僕がもっとも苦手とするジャンルです。

僕は、この「ホラー系」の大御所ともいえる「コープスパーティー」を やっているとき、とても恐かったのを覚えています。 恐くて一人でプレーは出来なかったので、友達を連れて、 2人でやっていました。それでも恐かったです。
コープスパーティーが恐かったのは何といっても 「選択を間違うと人が死んでしまう」というところでしょう。 アイテムを手に入れたときの音楽が不気味なところもあいまって、 常に緊張をほぐすことが出来ませんでした。

一方で、パレットはどうでしょう。 パレットは確かにサスペンス風ですが、シアンの身の安全が かなり保証されているので(ひょっとしたら銃で撃たれてゲームオーバーって ことがあるのかもしれないが、僕がプレーした限りではなかった) どうしても「緊張」が弱いのです。
そういうわけで、僕はあまり恐いとは思いませんでした。 どちらかというと「ホラー」というよりは金田一少年みたいな 「客観的な探偵」のような感じがします。 しかしそういうゲームでも「プレーヤーが推理を求められて、推理が 間違えているとゲームオーバー」みたいなフィーチャーが存在する わけで、どうしてもこういった「緊張感」はパレットに求められたもの、 といえます。

システム:「記憶を辿っていく」パズル

では、何がこのゲームを「傑作」と言わしめたのでしょう。僕は、 「記憶を辿っていく」というアイディアの秀逸さだと思います。
もっぱらこのゲームのキモって、導線のように繋がった「記憶」を 一つ一つ辿っていく、ってことにつきるわけです。
最初は精神力のゲージが少なくて、いくつか記憶を辿っていくとすぐに 「頭が痛い」ってなってしまうのですが、隠された記憶を見つけ出していく ことによって、記憶の深いところまで見つけることが出来るようになる、 という段取り。少しずつ明らかになっていく断片的な記憶が 垣間見られるのが僕にとって非常に興味深かったです。
斬新です。どちらかというとアドベンチャーと言うよりパズル、 といった方がいいのかもしれません。どちらにしろ新しいです。 審査員の「操作しているだけで楽しい」っていう意見は、まさに 「あやしい場所を覚えておいて記憶をたぐっていく作業が楽しい」という ことなのでしょう。

実を言うと僕は最初はプレーしながら「でもなあ、これ」と、 疑問を持っていました。 「でもなあ、記憶が系統立てられずに雑然と並んでいるなあ」とか 「思いもよらないところから完全に不規則に記憶の断片が出てくるのが なんだかなあ」なんて批判的な目で見ていました。 しかしよく考えてみてください。 実際の人間の記憶だって、恐らくは整然と並んでいるわけではなく、 ばらばらに並んでいるんだろうな、と思いませんか。 そういうところも含めて、改めてこのシステムの凄さを感じたので ありました。
見つけにくい記憶が固く閉ざされていて、なかなか行けないことなど、 かなり考えられていると思います。

とはいえ、どうもシステム的に不完全燃焼なところがあるのは否めません。 特に中盤、休憩場所の出現法則などに気が付かないプレイヤーは、 完全にはまってしまった人も多いと思います。 実際僕もしばらくはそうでした。(まあ、こういう法則性はプレイヤーが 見つけるべきものだと思いますが。)

肝心のシナリオ

そんな風変わりなシステムの中で展開されるシナリオは、少しずつ明らかに なっていく少女の記憶によって成り立っています。 いろいろと謎があるのですがあっちこっちのシーンから、 少しずつプレーヤーの頭の中で再構成されていき、 最後にはB.Dの生い立ちなどが分かってしまう、という段取りになっています。 このプレイヤーの自主的な推理が、何よりもこのゲームの醍醐味、と いえましょう。
ただしこのゲームには、一般の推理ゲームにあるような 「回答編」みたいなものがないので、プレイヤー(僕)が頭の中で 組み立てきれなかった部分は結局わからずじまい、 みたいなところがありました。 回答編を付けていてくれればなあ、と思った次第です。

また、シナリオの根底にあるのはかなり現代社会の犯罪心理学といった 色合いがあり、僕個人的にはかなり好みの題材です。 「B.D」の意味するところが分かった時、奮い立つような物を感じました。
・・・・とはいえ、そういうモチーフが組み込まれているのはよいのですが、 非常に浅いところでとどまってしまっているのが惜しいです。 出来ればエンディングで「人はなぜ犯罪に走るのか?」といったことについて もう少し考察すればよかったと思うのです。 どうもあのエンディングはあっけなさすぎると思います。

あと、これはちょっと無茶な要求かもしれませんが、 シナリオが進むにつれて、シアンの側にも何らかの変化が刻一刻と 起きていくようにすればよかったと思うのです。 そうすれば、「シアンの世界」と「B.Dの記憶」というシナリオの二重性が 生まれ、シナリオに深みが持たせられたと思います。
例えば、B.Dが記憶を蘇らせるにつれて、連動してシアンの身に何らかの 異変が起こりはじめるようにすれば、シナリオに二重性が持たせられるだけ ではなく、プレイヤーに「じわじわと詰め寄る恐怖」を感じさせる演出としても よかったのではないでしょうか。

あとひとつ、カタルシスが得たかった!

以上、パレットを解体してきましたが、 どうも僕はこのゲームを全体的に見て、「おしいなあ」という印象が ぬぐえません。 別に「一千万取った割にこの程度か」というのではなく、 システム的、演出的には凄いんだけど、プレイヤーに 「おお、すげえ」と思わせることで終わっており、 「おお、おもしれえ」と思わせるところにあと一歩のところで 及んでいない、そういった感覚がぬぐえないのです。

それでは世間一般で騒がれている「このゲームは本当に一千万円の 価値があるのか?」という疑問について。
僕の答えは「条件付きでイエス」です。
すなわち、前述の「あとひとつ」の部分を突き詰めていき、 「すごい」レベルから「面白い」レベルまで昇華していれば、 その条件のもとで一千万に値するゲームだと思うのです。 とはいえ、「あと一歩だから一千万はやっぱりやりすぎ」ということ にもならないと思います。やはり制作者にも時間の制約とかいろいろ あっただろうし、そもそもA-CONが「アイディアの斬新さ」すなわち 「ダイヤの原石」を求めているから、僕はそう位置づけているからです。 このゲームは、まさにA-CONが求めている「斬新さ」の基準の お眼鏡にかなっている、僕はそう感じるのです。


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