脱出

ジャンル:アドベンチャー(デジタルノベル)
プラットフォーム:Win95/98 (RPGツクール95作品)
作者:茶林 小一さん
種別:コンテストパーク入賞作品(フリーソフト)
ダウンロード先:コンテストパーク2000年3月受賞作品
入賞歴など:コンテストパーク2000年3月度銅賞(10,000円)

ゲームの内容: 記憶を失いし者。気がつくと彼は鉄格子の中にいた。どうやら炭坑跡のようだ。 彼は何のためにここにいるのか、何も思い出せない。 彼はとにもかくにもその場所から抜け出すべく、脱出を試みる。
幾多のピンチを切り抜けていくうちに、彼は自分の真実を知ることになる。 そう、これは全て、「物語のため」だったのだ・・・・。


すぐ死ぬのに感じないストレス

まず最初に書いておかないといけないのですが、このゲーム、 とにかくすぐ死にます。
最初にトロッコが走ってくるので、よける方向を間違え即死。
宝箱を開けると罠で即死
後編では追っ手につかまってゲームオーバーになること幾多(いくそばく)
平均で一般的なプレイヤーなら5.35回(当社比)死ぬでしょう、 いやはや、短編とは思えません。
しかし、不思議と、僕はこれらのことにストレスを全くといっていいほど 感じなかったし、その他のプレイヤーの評判を聞いていても、そういう話は あまり聞かれませんでした。なぜなら、このゲーム、セーブがこまめに出来る ようになっており、その要所要所のタイミングがいいのです。
このように、ゲームとして一番重要なプレイヤーへの配慮がしっかりしているので、主人公が とても理不尽な死に方を繰り返すのにも付き合っていける、という絶妙な バランスの塩梅(あんばい)になっている、といえます。

「物語」とは何か

さて、このゲームのシナリオについて、ですが、まずこのゲームはかなりの 短編です。しかし、その短い中にエッセンスが しっかりと詰まっている、良質のシナリオということが出来ます。

このゲームは「物語について扱った物語」です。もう少し詳しく言うと、 「物語に翻弄されし者の物語」、です。人は物語を求め、時には 物語の主人公のような英雄になりたいと思い、時には悲劇のヒロインに なりたい、と思う。しかしもし、実際に自分の一挙手一投足が物語に なっているとしたら?・・・・そんなところからスタートして、非常に深い ところまで問題提起の根をおろしていきます。

しかも、プレイヤーはここで気がつくでしょう、 「今、自分がプレーしているのもまた、物語なのである」と。 このゲームはこのようなメタレベルの批判を投げかけてきているのです。 このことは、詳しくは後述しますが、「それでは我々は物語 なのでしょうか?」そんなことを考えさせられるのです。

欲を言えば、 「果てしない物語」で、本の中に吸い込まれていったバスチアンのような、 ああいうプレイヤーをもっと意識させる演出があれば、もっと評価が よかったと思うのですが、似たようなメタフィクションをやっていた ゲームが他にある(マザー2のラストバトルなど)ので、無理にそこまで やる必要もないか、なんて思っています。

光る演出

さて、このゲーム、RPGとは違って戦闘のようなものもありませんし、 アドベンチャーゲームのように選択を迫られる場面もありません。 一般的に短編は、物語が面白くても、どうしてもそれだけでは弱い、と一般的に 言われています。 しかし、この「脱出」は違います。 プレーしていて緊迫感を感じることが出来、楽しんでプレーできます。
一言で言うと演出が秀逸なのです。
特に、間の取り方がいいんです。特筆すべきはエンディング。 よく見ていると、なんと音楽に合わせてきっちりと終了するように なっているのです。これにはやられました。 まさに、何度も何度もチェックしてテストプレーしたなあ、というのを 見せ付けられました。
「脱出」は、シナリオが短くても、演出の秀逸さがそれを見事にカバーしているのです。 この演出は、見習うべきものがあるでしょう。

ハッピーエンドではないが

そして特筆すべきはラストです。なぜなら、ここで一番考えさせられたから、 であり、ここまで辿り着いて、ゲーム全体のシナリオをいろいろと 思い返して頭の中でめぐらしていた僕がいたからです。

元来人間は、特に日本人はハッピーエンドの作品を好むといいます。 どうしてもラストが悲劇的な結末になるのは我々の感性に向いていない らしく、実際、何らかの統計では、これまで日本で大ヒットした映画作品の 殆どがハッピーエンドだった、という調査結果が出ています。
もちろんこの理由は「悲しいことは早く忘れたい」というのも あるのでしょうが、もう一つ、「悲しいラストでで感動させるのは難しい」 という点も挙げられるでしょう。
というのは、僕も下手なドラマを見ていて思うのですが、 中途半端に悲劇的な結末になることがありで、腹が立つことがあります。
特に「単純に、意味も無く人を死なせて涙を誘う」といった安っぽい シナリオの多いこと。 そう、「悲劇的なラスト」を描くにはある程度の技量がいるものなのです。

さて、この「脱出」。ハッピーエンドと見るかどうか、プレーした人で 意見が分かれるところですが、僕的にはあのラストを「悲劇的」と見ます。
とはいえ、このラストは、感動できました。 ネタバレになるので、かなり抽象的な書き方しかできませんが、 シナリオの中で出てきた些細な演出、特に「私に出来るのは これが精一杯だ」という、些細な努力、そのことを成し遂げるために 乗り越えてきた様々な障害、そういった多くのことを成し遂げた末に 実りそうで実らなかった努力・・・・・こういった数々の要素が、 「物語(=予定調和)」と「現実(=なかなか思うように行かない)」の はざまで葛藤してきた彼らの生き方、そして前途を感じさせるようで、 実に考えさせられ、なおかつその深さに素直に感動させられました。 「脱出」は、悲劇的なラストを見事に 描ききった作品、といえるのです。

物語のために存在し、悪戦苦闘をし、自分の命を賭けることが他人の娯楽になる・・・・ そのことを以ってしか自分の存在を証明できない。 映画グラディエイターに出てくる剣術士のように、実に儚い存在。 そうやって他人を楽しませるよりは、自分の人生を自分で選ぶべき、たとえそれが 苦悩を伴うことであったとしても・・・・。
ひょっとすると我々も、誰かの物語の、誰かの娯楽のために生きているのでは ないか?もしそうだとしたら、我々は今、何をすべきなのか?
短編のシナリオの中に、それ以上に多くのことを考えさせてくれるゲームでした。

提案:次回作は是非長編に挑戦して欲しい!

さて、このゲーム、かなり僕は気に入っていて欠点らしいものは あまり見当たらないのですが、 あえて気になったところを挙げるなら、「短い」というところです。 もちろんこれでさえも、「短くまとめている」という長所として挙げられるもの、 なので、これすらもこのゲームにおいては短所とはいえません。
とはいえ、一般に短編全般に言えることですが、長編のシナリオのような、 「少しずつ謎が解けていって一気にクライマックスに向けて急展開していく」 といった「盛り上がり」にどうも欠けるので、長編に比べて あまり長いこと心に残るような作品が少ないのも事実です。

とはいえ、僕は茶林さんの魅力は短編、すなわち短くびしっとまとめた エピソードにあり、とも感じています。それはこの「脱出」をプレーして、 強く感じました。 そこで僕としては、茶林さんには今度はこの勢いを持った長編を、 じっくりと作って欲しい、でもそれでいてこの「短編の魅力」を 活かしたものにして欲しい、と個人的に期待しているのであります。

そこで僕が「参考作品」として挙げたいのが、 スーパーファミコンで出た、「ライブ・ア・ライブ」というRPGです。 これは、各時代に散らばった7人の短編になっていて、原始時代から幕末、 現代、近未来まで様々な時代の短編を楽しむことが出来ます。 そしてその後、彼らは中世に結集して魔王を倒す、というシナリオなのですが、 このゲームは「オムニバス形式の短編をまとめて一つの壮大な作品に仕上げた」 よいモデルであるといえます。

これに倣って、5つの「語りの者」シリーズをオムニバス形式で一本にまとめて、 最後にそれらの主人公が結集して何か事件を解決したり魔王を倒したりする、 というゲームが仮に出来たとしたら、それは凄い作品になると思います。 きっと、「完成度の高さ」「演出の妙」「シナリオの秀逸さ」「盛り上がり」 「プレー後の余韻」全てを兼ね備えたものが出来そうでなりません。 そう、茶林さんのきらりと光る多くの短編をひとつひとつプレーしていき、 一見無関係に見える茶林さんの多くの短編が最終章で一つに繋がる、 そういったもののプレーしている様子を想像しただけで奮い立つものを感じます。 うん、プラチナ賞ものだと思います(僕の考え過ぎでしょうか?)。
そういうわけで、茶林さま、是非頭の隅にでいいから入れてくれたらなあ、 なんて思っております、そしていつか僕のこの我が侭な望みを聞き入れてくれたら なあ、などと考えているのであります、はい。


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