TIME TOWER

ジャンル:RPG
プラットフォーム:Win95/98 (RPGツクール95作品)
作者:小柳 博亜旗(ひろあき)さん
種別:フリーソフト
ダウンロード先:作者のHP 「VELVET GOLDMINE」

ゲームの内容: 魔王を倒す勇者を選ぶための選抜試験。選ばれた男女各1名は、魔王討伐のために 「時の塔」を上って時間をさかのぼり、魔王の誕生前へと行くことになっている。 主人公マルスは下層民。友達も先生も、「どうせこのクラスから魔王討伐チームが 出る訳がない」と諦めムードだったにもかかわらず、主人公はやり遂げてしまう。 上層民「エルマ」と組んで時の塔を上り、時間をさかのぼっていくのであるが、そこで 真実を知る事になる。この世界はどうなっているのか?魔王の正体とは?


「キャナル市」の逆年代記

まず、最初に。このゲームの主題は、「時の塔」です。 これは、ゲームボーイで1989年末に発売された「魔界塔士Sa・Ga(以下サガ)」のオマージュといえます。 「サガ」は、塔で繋がった世界を上っていき、それぞれの世界にいる魔王(四天王)を倒して 上に登っていくうちに、この世界の真実を知る事になる、というシナリオのゲームなのですが、 その世界観やシナリオの凄さ(原発とか核爆弾とかが出て来るRPGなんてそれまでに あったでしょうか?)から、当時中学生だった僕の脳天を強烈に直撃したゲームです。 「サガ」の中の、「塔の中では時間の流れが一定していないのだ」という 意味ありげなメッセージは未だに僕の頭の中に残っています。

さて、今回紹介する「TIME TOWER」も、塔を上っていく、という点では共通していますが、 「塔を上ることによって時の流れをさかのぼっていく」といった、「時間」との 関連が色濃く出ています。このゲームの舞台になる「キャナル市」が今の形を 作り上げていった過程における謎が少しずつ解けていき、 そして、塔の最上階に上りついたとき、キャナル市の重要な真実を知る事に なる、そういったシナリオです。

メインは、バトル

「サガ」が、塔で繋がる街の中の移動がメインなのに比べて、 「TIME TOWER」は塔の中がメインです。塔の中ではイベントらしいものは起きず、 バトルが中心となっています。
バトルのバランスは結構計算されているし、とてもプレーし易いです。 どちらかというと「持久戦」、つまりMPをどう温存するか、がキモに なっており、RPG好き、 特にダンジョンの戦闘が好きな人にはシステム面だけ見てもかなりお勧めといえます。

そしてこの塔の中で延々と続くバトルと回復。その中に垣間見られるマルスとエルマの 会話。2人だけの孤独な時間。僕はここに 「様々な思いを押し殺してただひたすら無心に 塔を上っていく主人公達」を感じることが出来て、共感の念を覚えました。 そう、雰囲気がいいのです。
特に、ゲーム後半。これまで塔を上ってきましたが、今度は人類の辿ってきた道を 辿り直すべく一階一階、一世紀一世紀のフロアを降りていく時、それを否応無しに 感じさせてくれます。

このゲームでは様々なエピソードが語られ、いろいろと深遠な謎が少しずつ とけていったり、ただ流れていく時代の流れを見ていったり、と様々なところがあります。 しかし、このゲームの一番のキモは、やはりこの延々と続くバトル、ただ無言で 塔を上り続ける主人公達の勇姿を見ながら、「彼らは一体何を考えているのだろう」と 考えること、のような気がしていました。

なさけなさ丸出しの健気な少年と強気だが悲劇のヒロイン

さて、主人公の「重要な運命を担う一組の男女」、マルスとエルマにも目を 向けてみましょう。 主人公となるマルスは、下層民ですが、わがままで小心者です。 何度も「行きたくない」と言い続け、エルマを困らせます。 一言で言うと、マルスは、エルマに母性本能を感じて甘えているわけで、 エルマを「姉さん」と呼ぶマルスに、 プレイヤーとしてかなり共感してしまいました。
当然でしょう。突然「魔王を倒しに行け」と言われても、しかも 「万に一つの可能性に賭けている」責任重大な仕事を任されて「はいそうですか」と いえる人なんてそうはいません。
勿論、マルスだけではなくエルマも状況は同じですし、何より恋人を置いてきて しまったエルマはかなり悲劇のヒロインであるともいえます。
そんな状態で落ち込んでいくエルマを元気付けようとするマルス。なんか男の 無力さ、けなげさを感じてしまい、僕はマルスを自分にオーバーラップさせていました。

それに、マルスは回復専門です。一人では決して塔の魔物達に太刀打ち できないでしょう。しかしエルマは攻撃魔法が強いとはいえ、 回復出来ないので、彼女もきっと一人では塔を攻略することは出来なかったはずです。 また、HPや攻撃力などの特性値が高いのはマルスの方であり、本来彼の方が 戦闘に立つべきなのに、エルマを盾にしておどおどしている情けない男、マルス。
こういった役割分担のうまさも特筆すべき点でしょう。

永遠の時の流れ、繰り返す歴史

最上階の世界に、魔王がいる(ということになっている)のですが、 さすがにここはネタバレになるので、細かいことは書けないので、是非 プレーして真実を確かめて下さい。
ただし、一言。1回では主題がつかめないかも しれません。それでも何度も繰り返し見ているうちにだんだん見えてくる、 そんな感じの深遠な主題なので、分からないと感じても、何度か見て下さい、 と書いておきます。

ところで、前述の「サガ」でも、ラストはかなり衝撃的でした。 最終場面で主人公達は その世界をつかさどっているすべての真実を知る事になるのです。 「サガ」は昔のゲームだし、時効と言うことで敢えてネタバレさせてもらうと、 「サガ」のラスボスは「神」です。主人公達は、この世界全てを 作り上げた創造主の神が「私は平和な世界に飽き飽きしていた、だから 悪者と、それを打ち倒すヒーローがほしかった。」と言うのに対して、 「お前のためにここまで来たのではない!」と戦いを挑み、勝利します。 そうやって「自分達の世界」を作り上げていく、というわけです。 「サガ」は英語版も出ているそうで、キリスト教圏の人たちはこれを プレーしてどのように思ったのでしょうか。いろいろと考えさせられます。

一方で、このゲームのラストは、かなり毛色が違います。主人公達は ラスボスと戦うことになるのですが、その後、この世界の真実を知る事になるのです。 ここに作者の最大のテーマがでてくるのです。「我々は時間の流れに翻弄され、 抗い、そして生きているのだ」と。
この主題を裏付けるように、「ラストまでいくと、また最初に戻る」という 演出が施されています。 僕は最初「なんだろう?」と思ってプレーしたのですが、全く同じ展開。 後で知ったのですが、このことは作者からの注意として、付属のテキストファイルに 書いてありました。僕はそれを読まなかったので、「なにごと?」と思ったが、 そこに作者の意図を感じ取りました。 そう、世界はエンドレスなのです。歴史は繰り返します。 それは、我々が抗うことの出来ない運命なのです。 しかし、少しずつ、その中で行われるやり方は 少しずつだけど洗練されて、少しは成長していく 人類、それは主人公達のレベルが下がらないことに込められた メッセージのように思えました。

粗削りだが、そこがよい

正直に言うと、このゲームの演出やイベントの量には、少し粗削りなところを 感じました。その結果、訴えたい物がある、というのはよく分かるのですが、 1回プレーしただけではピンと来ないところがありました。 僕は、もう1回(1周)プレーしてみて何となくつかめてきた、そういった 感じがします。
そういう点から、僕としては「もう少しイベントの数を増やして、密度を濃くしても よかったのでは?」と思います。主人公達に迫り来る運命の重さを少しずつ 実感させるようなイベントを入れるため、もう少し街の数を増やしたり、 塔の中でのさりげないイベントを増やしたりすれば よかったのかもしれない、と思います。

例えば、このゲームの塔の中に「時空の漂流物」を漂わせ、その時代を 思わせるような手紙、壊れた機械、などをあちこちに配置して、そういうのを 見つけて主人公達がその時代に思いを巡らせるような演出を入れたりすれば、 かなり世界観に厚みが増したのではないでしょうか。
もし、バージョンアップや続編を考えているなら、その時にはこの点を考慮して いただけたら、なんてことを1レビュアーとしてあつかましくも思っております。

閑話休題、そういう粗削りな印象は受けつつも、それでもこのゲームはいい、と 思います。深遠な思想がみてとれたので、 僕としては二重丸です。 僕はこのゲームを、前述の通り、多くのことを語るよりも、誰もいない塔の中での 度重なるバトル、歴史をたどっていく中での孤独を感じながら、プレイヤー自身が主題に付いて様々な思いを巡らせることをメインにすえた ゲームだと位置づけています。 こういうゲームは、プレイヤーに多くの情報量を与えるより、情報の断片を 与え、プレイヤーが想像して世界観を補間していくことが醍醐味であり、 TIME TOWERは、まさにその点で成功しています。

ベクターからDL出来るお勧め作品

最後に。これまでのレビュー対象と違い、この作品はコンテストパークやA-CONの 受賞作ではなく、ベクターなどのダウンロードサイトに 公開されているものです。雑誌にも収録されていましたね。

僕は、ベクターにアップロードされている ゲームをいくつかプレーしてみましたが、その感想は、 「玉石混交で、当たりは多いけどはずれも多い」ということでした。 つまり、時間をかけてDLしたのにつまらなかった、ということもあるわけで、 特にツクール95作品のように容量が大きい作品に付いてはなおのこといえると思います。 また、たまに面白い作品があっても、そういう作品に限って後半がシェアウェアだったりするので、 何となくがっかりします。

僕は、ベクターが玉石混交なのは、ある意味で当然だと思っています。
それは、コンテストパークのように審査を設けてしまうと、「審査に異議あり!」って 声が多くなるのも事実だからです。人によって「面白い」の基準が異なる以上、 審査を持ち込むと、これは避けられない問題だと思うのです。
だからこそ、玉石混交の方がいい。そして、こうやって皆が個人的に面白いと思う作品を紹介していくことが大事なのだと思います。 そう、くちコミが重要なんです。

そういうわけで、「これは結構オススメ」といえ、 なおかつフリーのRPGを見つけたら是非オススメしていきたいと僕は思うのですが、 「TIME TOWER」はそんな僕のお勧め作品のひとつなのです。


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