クック・ドゥ・ドゥル・ドゥー

ジャンル:RPG
プラットフォーム:PC-9801/21シリーズ(Dante98作品)
作者:中西 白夜様
種別:フリーウェア
ダウンロード先:A-CONホームページ内の第1回受賞作品紹介ページ
入賞歴など:A-CON1 グランプリ(1000万円)
備考:オリジナルは、Super Dante(スーパーファミコン)作品。 評価はDante98に移植されたバージョンを使いました。

ゲームの内容: 大富豪ハフマンの息子ニコルは、父親のお金を使って毎日を楽しんでいた。 しかしある日突然ハフマンが借金を作り逃げてしまう。ニコルに残されたのは 鶏のパル一羽だけ。主人公は鶏のパル。バイトをしながら生計をたてる ご主人様ニコルと別行動したり一緒に行動したりしながら話を進めていく。 動物達だけの時は、動物と会話をしたりしながら進めていく。ニコルと一緒のときは 人間の視点からの話が進む。
最終的に、闘鶏場でパルを優勝させようと目論むニコルだが....。


今回はちょっとドキュメント風にいきましょう

まずこの「クックドゥドゥルドゥー(以下クック)」。 作品内容レビューの前に、「アスキーエンターテインメントソフトウェア コンテスト(以下A-CON,Aコン)第1回のグランプリ、1000万円」 ということで話題になった、という話をしていきたいと思います。 実は、このAコン、開催決定当時はプロアマ問わず、グランプリには 賞金1000万円、ってことで、当時としてはとても新しく、 賞金の金額の大きさもあって非常に注目されていました。
そのため、この作品も、そんな中でのグランプリ、ということで プレーしたことはなくても有名になりました。 今でも、ツクールに興味がない人でも多くの人が知っているのではないでしょうか。 当時大学1年だった僕も、ファミ通でこのニュースを見ました。 確か、ファミ通で写真入でインタビューを受けていた記事が載っていました。

A-CON1の思い出

さて、このグランプリ作品ですが、世間を驚かせたのは、 1000万円が賞金だったことだけではありません。 グランプリ受賞作品が様々な面で皆の予想を裏切っていたのです。 まず、作者は17歳高校生(当時)です。
Aコンも、回を重ねるごとに、「オリジナリティが重視される」ということが 常識として認知されていきました(第2回の最優秀賞の一人、 「まおうさたんのえにっき」の作者、二星護(マモル)さんなんて、12歳(受賞当時) ですからね!)。 しかし、そういったイメージがまだなかった第1回では、 グランプリ入賞作品を見て皆びっくりしていたことでしょう。
きっと、皆、グランプリが取れるのはセミプロでバリバリのプログラマーであると 予想していたに違いないのです。

実際、僕もそのように予想していた人の一人でした。 僕は、第1回Aコンが開催された当時、プログラムでRPGを作成してやろう、と 考えていました。舞台は現代、現代社会の病理を描きつつ、なんか楽しい。....そう、 ムーンホイッスルの原点ともなる作品だったのですが、当時は一人でやってどれだけの 労力がかかるかも知らずにやって結局僕は破滅しておりました。 結局3ヶ月くらい頑張って、移動ルーチンとウィンドウルーチンと、 キャラクターのルーチンとかは作ってそれで終わり、 そんな感じだったと思います。やはりツクールは偉大であると実感しました。 ....って僕の思い出など誰も聞きたくないか。

閑話休題、そのくらい大規模で技術的にも凄い作品を作らないといけないだろう、と 考えていたわけです。そして皆そう考えていたと思われます。実際、とてつもなく 大規模な作品が作られており、入賞しています。今ここにソフコン6号があるので、 それを見てみます。A-CON1の敢闘賞(賞金30万円)の 「NET LINER」は、レイトレーシングに よる画像やらポリゴン、そして声優の卵によるボイス、といった超豪華なつくりで、 16人のメンバーが合宿をして作り上げたそうです。 この作品は「これを収録するとソフコンにCDを 2枚つけなくちゃいけない」という理由で収録されていなかった そうですが、どうでしょう。これで30万
普通のコンテストだったら、これがグランプリでしょう。

しかし、アスキー(当時)のおめがねにかなったのは、 「ものすごい大作」ではなく、 高校生がスーパーダンテ(スーパーファミコンのツクール)で 作った、シナリオとして斬新な作品の方だったのです。
これには皆、驚きます。しかし、考えていくうちに、 「確かにこれは一千万に値する作品なんだ」ということが分かってきます。

スーパーダンテで作るということ

さて、それでは、その作品とはどういったものだったのでしょうか。
まず、この作品は、スーパーダンテで作られていました。 これはスーパーファミコンのツクールで、興味がある方はニンテンドウパワーでも 書き換えが出来るので試してみてもいいかと思いますが、 非常にやれることが少ないのです。 スーパーファミコンのツクールとしては、僕もツクール2を借りてみたのですが、 途中でねを上げてしまいました。「マップパーツが書き換えられない」 「キーボードがない(メッセージは全てカーソルで入れる)」「操作が覚えるまで かなり煩雑」などなど....。

実際、「RPGツクール買ったけど、何も作れなくて、結局カセットを売ってしまった」とか 「一日かけて作ったのに5分でクリアできるゲームしか作れない、脱力」といった 意見はかなり聞かれました。
当時、PC-98でもツクールは出ていました。こちらだともう少し操作性もいいし、 何よりグラフィックを書き換えなど出来ますが、スーパーダンテは、 作品を作るにはあまりにも制限が大きすぎるように思われました。

しかしここで、スーパーダンテを手にした人の反応は二通りに分かれるわけです。 「作れないからやーめた」であきらめる人と、「この制限の範囲で 何か作れないか」と知恵をひねる人。
結果的に、知恵をひねった側の勝利。というか、ここまで作れたというのは凄い、と 素直に感心できるだけの作品だったといえます。 つまり、この作品の最大の評価は、限られた制限の中で作品を作ると いうことが求められ、その制限をこなしていったという点にあったのだといえます。 意地の悪い人はここで、「アスキーが自社のツクールの 宣伝目的に1000万をでっち上げたんだ」ということを言いそうですが....その点に 関してはノーコメント。っていうかそんな事情知る由もありませんし憶測でものを言うべき ではありません。

で、この作品、サテラビューでも配信されていたそうです。さらに、 唯一Dante98へ移植された作品です。皆がプレーできるようになったわけですが、 それでは実際、この作品はゲームとしては面白いのでしょうか?また、オリジナリティは 宣伝されたように高かったのでしょうか?そういった点を検証していきましょう。

このゲームのオリジナリティとは

実は「オリジナリティ」という言葉についてですが、今現在、ゲーム業界でも 「面白いゲームがない」という話をよく聞きます。それを打破するのが オリジナリティであると考えられているわけですが....ちょっと待ってください。 「オリジナリティがあるゲーム =面白いゲーム」とは限りません。
オリジナリティをうまく料理して 面白いレベルに昇華しなければ、独創的で面白い作品、名作にはなりえません。

実際、「独創的なアイディア」についてはたくさんの話を聞きます。 何かの本でこんな話を読んだことがあります。

「『子供を不良に育てるゲーム』なんてアイディアを考えて、 それを独創的だと思いこんでいる人がいますが、 『そんなゲーム、プレーして楽しいと思いますか?』と言いたい」
いかがでしょうか。アイディアは独創的なだけではだめで、 ゲームの面白さに直接的に、あるいは間接的にでも結びつくもので なければなりません。

その点、クックはどうでしょうか。僕はこの作品は、 アイディアが抜き出ているだけでなく、 「遊べる作品」としてかなり高いレベルだと思います。 当時はまだザッピングなんて概念はそれほど浸透していなかったと思いますが、 そんな時に動物と人間の2つの世界のシナリオを創り出し、二重性を持たせるあたりが、 凄いと思いました。しかもそれを制限の多いsuper danteでやってのけてしまうのが最高 です。詳しい話は後で分析するとして、このゲームは、まさにオリジナリティが 高いだけでなく、ゲームとしてきちんと成立している、ということです。

実際、この「新しい」と「ゲームとして面白い」はなかなか両立が 難しいものです。A-CON1でも、入賞作品に 「春の嵐」という江戸時代の大奥が舞台のRPGがありました。 これは、オリジナリティだけについて言えば、その凄さはクックの比では ありません。何しろ、グラフィックが和風。これだけでも Dante98作品では相当珍しいです。しかも、普通の時代劇ではなく、大奥が舞台。濃すぎる顔グラフィック。 しかし、どこに行けばいいのか分からず迷ってしまい、中断してしまいました。 結局話がどう展開するのか分かりませんでした。 もう少しユーザーフレンドリーであれば、と悔やまれました。非常に惜しい作品 だったといえます。
また、A-CON1の入賞作品の傾向を見て皆考えたのか、A-CON2では、オリジナリティの 高い作品が多かったと聞きます(ソフコン10号)。 しかし、「狙いすぎ」の作品が多く、また、ゲームバランスなどの肝心な 部分をおろそかにしているものが多かったそうです。

以上より、オリジナリティとゲーム本来の面白さの両立は、口で言うのは 簡単でも、実際にはなかなか難しいことが分かります。 それを成し遂げたクックは、相当に秀逸であったということができます。

シナリオやゲームバランス

以上より、クックの凄いところは、要約すると 「制限の多い環境を最大限に活かして作られ、オリジナリティがあり、 それでいてゲームとして面白い」点であることが分かりました。 それでは、クックのゲームとしての面白さは どこにあるのでしょうか。それを列挙していきます。

まず、シナリオについて。シナリオは、ニワトリのパルが主人公で 動物だけの時と、ご主人様ニコルが一緒にいる時とを、切り替えながら進むのですが、 このことでシナリオに二重性があってよいです。 町の人の台詞も微妙に変わるし、ここらへんが醍醐味といえます。 こういうのは、システムがしっかりしていないと、不自由さを感じるのですが、 切り替えが簡単に出来る(酒場に行くと、ご主人様ニコルは バイトを始めたり抜け出したりする)ようになっており、ストレスを感じることは ありません。

そして、そんな中で出てくるキャラクターたちが個性的なこと。 取り敢えず中華料理店のマンプク。ニコルと一緒に行くと食べ物を売ってくれるのですが、 パル一匹で行くといきなり「食材発見!」といってつかまってしまいます。 死神なる猫にも食われそうになる(後に仲間になる)など、ニワトリの哀しさという ものを痛感させてくれました。
しかし、首をひねって殺される哀れなニワトリのイメージを 感じさせるのではなく。むしろ全編ギャグ調に なっているのもまた好感が持てます。
仮に僕がニワトリをモチーフにした作品を作るとしたら、 僕はニワトリといったら絶対に「最期は人間に食われる」という イメージが捨てきれず、そういう後味の悪そうな話をつくってしまいそうです (苦笑)。

あと、ゲームバランスも相当に計算されています。 さらにシナリオを追って敵キャラが出てくるだけでなく、 強敵「スルツル」なんてのがいたりして、挑戦しがいが あります。こういう「挑戦しがいのある敵キャラを入れる」というのは、 当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが、こういう「ゲームとしてのお約束」を 守っているRPGというのが意外に多くないのも現状であると言えます。

また、音楽に合わせて流れるメッセージなど、演出面での工夫などもしてあります。

以上のように、「ゲームとしての面白さ」「オリジナリティ」「スーパーダンテという 制限を考えた作り」、この中のどれか一つを取って見ると、 「確かにトップクラスではあるがナンバーワンではない」と感じるかもしれません。 しかし、この3つ全てにおいてトップクラスを維持する、というのは難しいことです。 そして、それを成し遂げた作品だからこそクックはグランプリに選ばれたのだと 思います。

1000万の価値があるのか?Yes!

それでは、このゲームは一千万に値するのか? あの時代では確かにいろいろと意見があったと思うのですが、 携帯ゲーム機がゲーム業界の主流の一つとなった今では、 この才能は間違いなく有効だと思っています。 時代の追い風です。アスキー(当時)の判断は間違ってなかったかも?と 思います。

本来、ゲームデザインというのは「 コンピュータという限られた"制限の中で"、 いかに自分の作りたいものを載せていくか」 ということだったと思います。 そして、この命題は、マシンのスペックが進歩した今でも、あまり変わっていません。 殊に、最近Javaによる携帯用のソフトが注目されているように、 いくら時代が進歩しても、 「制限の多い環境でゲームを作る」という要素はなくならないように思えます (携帯電話の次は、ビデオのリモコンや炊飯器の液晶画面で出来るゲーム、なんてものが 出てこないともいえませんよね!)。

勿論、iアプリの制限はメモリの少なさ(技術的問題)、 スーパーダンテの制限はデフォルトグラフィック(センスの問題) であり、これらは別の才能のように思われますが、 根本では同じセンスが要求されると思っています。
この理由は理屈として厳密な説明はしにくいのですが、拙作でも、 「1マップ上のイベント数を 減らすためにシナリオに矛盾のないように マップを書き換え、その結果さらに 違った展開が思いついたり」といったことがあったので、 この経験からゲーム開発においては技術的なセンスと芸術的なセンスの両方が必要とされると 感じているのです。

つまり、クック・ドゥ・ドゥル・ドゥーは、作者が技術的および芸術的(文学的)センスの 両方を兼ね備えており、それによってスーパーダンテの制限をこなした作品である、 ということです。よって、Javaで携帯用アプリを作ろうとしている人にとっても プレーする価値のある作品なのではないか、と僕は考えています。


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