夢見る大地

ジャンル:RPG
プラットフォーム:Win95/98 (RPGツクール95作品)
作者:KINOKOさん
種別:フリーソフトウェア
ダウンロード先:ベクター・ KINOKOさんのサイトからも可能

ゲームの内容: 主人公フェーンは病気の母と二人暮し。しかし貧乏なため、薬を買うお金にも事欠く毎日。 そんな時、エルダス国王のモンスター調査団募集の話を聞く。 多額の報酬が出るその仕事を求めてフェーンはエルダス城に向かい試験を受け、見事に合格する。 しかし、調査団の仕事を続けていくうちに思いも寄らぬ出来事に出会い、この世界の 真実を知っていく。そう、15年前起きた事件が理由で、エルダス王は変わり、 世界はばらばらになった…。


ツクール95作品もまだまだ負けていません

最近コンテストパーク作品ばかりやっているので どうも頭がそっち方面になっておりますが、たまには 違う作品もやらないと、ということで今回はKINOKOさんです。 KINOKOさんのサイトは結構ツクールの話題で盛り上がっていますが、 今回そんなKINOKOさんの作品をプレーしてみました。

で、最初に結論から言うと、 最近ツクール2000でいろいろと作品が出ていますが、 まだまだツクール95作品も負けてないことを実感させてくれました。 ツクール95作品の特徴としては戦闘などが制限されている分 シナリオ重視になるものが多いのですが、本作品もその系統です。 というわけで、早速みどころについて分析していってみます。

親切設計になっていて気軽に遊べる

まず、この「夢見る大地」は、非常に気軽に遊べます。 これは、コンテストパークと違ってベクターなどのダウンロードサイトで 紹介される作品ということもあってでしょうか。ダウンロードされる層も広いため、 間口の広い作品に、と考慮されたのだと思います。
実際僕がこの作品とであったのは、雑誌(PC Life)に収録されていた からなのですが(ちなみにこの雑誌の主な購買層は 主婦やOLのようです(^^;)…なぜ僕が買うんだろう)、 間違いなくそれだけの魅力があります。

例えば、シナリオに関係ない場所に間違えて行ってしまう心配もなければ 謎を解き終えたり重要人物に話を聞き終える前に街を出てしまうこともありません。 そういう場所に行こうとすると「こっちには用がない」「まだやることがある」といった メッセージが出るため、明快です。
実を言うと僕はこういうところには結構厳しい(自由度を奪ってしまうことに なりかねないから)のですが、その基準にあてはめても「夢見る大地」のユーザーフレンドリーは 成功しています。
僕が親切設計を好まない理由の一つに「プレイヤーの自由を奪い束縛しすぎる」 というのがあります。 例えば、次の街に行った後で、前行った街に売っていたアイテムがほしくなったり しても、もう戻れないとか)がありがちです。しかし夢見る大地ではそういうところが きちんと計算されていますし、「ストーリーを追う」という点に重視しているため、 無用のストレスを感じずに済んでいるわけです。

設計だけでなく、細かいところが凝ってます

以上のように、ストーリーの設計もいいのですが、設計だけでなく、 凝っているところは凝っているというのがかなり感激です。具体的に言うと、 謎解きも面白いのが多い、ということです。

ツクール95のテクニック的にも入隊試験の迷路とか「え、これどうやって組んでるの?」って びっくりするような仕掛けもありました。無礼を承知でツクール95のエディタを立ち上げて 覗き見て「なるほど!」と感心したのでありました。
こういうテクニックはツクール2000になって過熱してきている感があります。 勿論ツクール2000では凝ったイベントを作り、それを売りにしているゲームが多く、それは それでまた面白いと思いますが、 一方で、そうやってテクニックに凝るというよりはストーリーの中でさりげなく見せている、 この夢見る大地のようなテクニック使い方も好きです。

それと、顔グラフィックを初めとするオリジナルグラフィックについても特筆すべきです。 重要な人物には顔グラフィックがあります。各国の王達や主人公の仲間たち、それだけでなく 敵キャラにもグラフィックがあります。 あと、(作者に問い合わせたわけではないので確定できませんが、)キャラチップも、 オリジナルだと思いますが、これも味があっていいです。僕好みです。

ファンタジーということで敬遠していましたが…

さてこの作品の世界観やシナリオに述べていきます。 夢見る大地は、典型的なファンタジーです。王国があり、町があり、ダンジョンがあります。 ファンタジー系が好きな人にはお勧めです。とはいえ僕は、 ファンタジーはちょっと苦手なのです。 特に横文字の固有名詞。僕は横文字の固有名詞が覚えられない(なさけない(^^;))ので ファンタジー系のゲームは固有名詞とか人物関係を紙に書きながらプレーするのですが、 今回も紙に人物関係を書きながらプレーしました。
もっとも、仮に固有名詞がごっちゃになっても前述のとおり間違った選択はせずに 済むので気軽にプレーはできるのですが、やはり話の流れをじっくり追っていったほうが 楽しめますし。
で、思ったのは、やっぱり伏線とか張ってありますし、なかなかに面白いということ。 ここらへんは後述します。

登場人物について。
このゲームはしゃべる系の主人公なので、「話に参加する」よりむしろ 「話を見る」タイプです。キャラクターの性格がよく出ています。 個人的には、フェーンがお人よし過ぎるのが 好感が持てました。 やっぱりお人よしは美徳ですよ。王道系の伝説の勇者の話もいいのでしょうが、 僕はこういう一般人だけどお人よしの主人公のほうが好感が持てます。
例えば、ランスの町の夜の井戸でルーシェに誤って突き落とされた時、ひと言も 文句を言わなかったフェーン。ここで僕だったらひとしきり口論をはじめ、 その声で魔物達の目を覚ましてピンチになってしまうところでしょうが、 このフェーンの態度は非常に大人で、「あんたこそ世界を救うのにふさわしい人柄だ、 フェーンさん」と心から思いましたよ、ええ。

シナリオ展開について。こちらも結構魅力的です。
フェーンの母国ローダ王国は、国王エルダスの以降により、出入りが 厳しく制限されているのですが、 変貌し始めたのは15年前であったといいます。その15年前に何が起こったのか。 これに対して重要人物が何度かフェーンに話し始めようとするのですが、 そのたびに事件が起こってうやむやになってしまい、 プレイヤーも含めて真相を知るまでに長い時間がかかる。 このあたりの「じらし方」のうまさがいいと思いました。

また、途中でパーティーが分岐するところもあり、結構芸に凝っています。 キャラクターがしゃべるタイプのRPGっていうのは、前述のとおり「見る」タイプの ゲームなので、「こいつが主人公だ」って感情移入をさせるというよりむしろ、 いろんな視点から見ることが出来ると思うのですが、まさにその点でこういう試みは 面白いです。

このように、シナリオは結構凝っているのですが、その根底を貫くテーマもよいです。

魔の陰謀にはまり、分裂する人類

そう、シナリオのテーマについても結構深いです。 ストーリー重視ということで短時間ですが非常にメリハリがあり、 少しずつ謎がわかってきます。前述のとおり、「15年前に何が起こったのか」 この点については序盤からほのめかされているのですが、この事実がわかってから 話は急展開します。忠誠とは何か、 人間の弱い面、そこに付け入る悪、信頼と裏切り、など 人間の葛藤を通して様々なことを考えさせてくれます。
そもそも僕がファンタジー系のRPGはあまりやらない理由として 「中世風の世界観で描かれても僕にはピンと来ない」というのがありますが、 こういう作者の哲学には敏感です。
「今なお地球上では争いや分裂が続いてはいるが、冷静さを取り戻せば 解決の道がひらけてくるかもしれない。 しかし同時に今燃え盛る憎しみを消すのは容易ではない。 この憎しみと向き合うすべはないものか…」エルダス王とのやりとりを見ながら そんなことを考えていました。
ここは皆さんプレーして確かめていただきたいので多くは書きませんが、 是非とも確認してください。

なお、KINOKOさんのサイトにもありますが、赤い実のイベントによって 分岐するように、しっかり作っています。
最後で、フェーンの病気の母に会うシーンがあればよかったなあ、と 思ったりしました。

惜しむらくは戦闘のバランス

さて、いいところばかり書いてまいりましたが、一つだけ残念な部分を 書いておきます。それは、戦闘が簡単すぎて達成感がないという点です。

最後のラスボスの前で四天王クラスの敵と戦うのですが、 このボスはシナリオの途中で何度も主人公の前に現れる際、 お約束のごとく「お土産」と称してモンスターを置いていくのですが、 そのボスの強さがほとんど同じで、「君たち、これで本当にフェーンたちを 倒すことが出来ると思っているの?」と思ったり、最後に彼ら刺客と戦う 時に「この程度の実力なのか!?」と思ったり…。

勿論、その点を除けば、かなりお勧めなので、ストーリーを純粋に楽しみたい人には 雰囲気のよさ、オリジナルグラフィックも相まってかなり楽しめると思いますので お勧めであることには変わりありません。

しかし、プレーしていて思ったのは、これは夢見る大地に限らず一般にいえることなのですが、 RPGの戦闘のバランス調整の難しさについてです。 特にコンテストパークやAコンのゲームにおいては、斬新さが重要な評価基準と なることもあって、従来タイプの戦闘はなおざりにされることが多いのです。
クッキングアドベンチャーのレビューでも書きましたが、戦闘が好きな僕としては この現状はちょっと残念です。最近いろいろあって戦闘のバランスに考えている僕としては 考察してみようと思っています。

というわけで、KINOKOさんに何か提案をさせていただくとすると、 もし仮に「次回作をRPGとして作ろう」と考えておられるのでしたら、戦闘にも 凝ってみると、非常に人気のあるゲームになると思います。(夢見る大地の2000での リメイク、なんてのも面白いと思いますが)。なんか非常にぶしつけな提案で 失礼しましたが、非常にそういう可能性を感じさせてくれる興味深いシナリオだったと 思っています。

今こそ95作品に目を向けよう!

というわけで結論です。
冒頭でも述べたように、現在既にツクール2000が主流になっているような印象も 受けますが、ストーリーを純粋に楽しみたい人のみならず「システム的にも凝りたいけど ストーリーもおざなりにしたくない」と考えているアマチュアクリエイターの 皆さんにとっても、ツクール95作品は掘り出し物の宝庫なのだと思います。
まずはこの作品でそれを確認なさってはいかがでしょう。

特にツクール2000発売以降に初めてツクールに触った皆さんには新しい発見が あると思います。そういえば拙作もツクール95作品ですが(^^;)、むしろそのような 長編よりも「夢見る大地」のような短編をいくつかやってみるといいと思います。


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