エンドロール   プロローグ  ずっと続いていくと思ってた。  いつまでもいつまでも。  この平凡で、そして楽しい毎日が。  いつでも理由を探した。  何一つとして与えようとせず、何一つとして得ようとしないまま。  変わらないものなんて、なにもない。  永久不変などというのは、ただの幻想だ。  僕は知らなかった。  この世界が嘘だということを。  僕は逃げ出した。  夢が目覚めを恐れるように、心が壊れていくのを恐れて……。    そしていま、この世界に立っている。  ジリジリジリジリ〜。 「う〜ん……」  カチッ。  布団の中から手を伸ばし、目覚し時計のスイッチを切る。 「もう、朝か」  ベッドからゆっくりと立ち上がり、軽く伸びをする。ついでに眠たい目をこすりながら、カーテンを開けた。  朝の日差しが、部屋を明るく染める。まだ明るさに慣れていない目に光が当たって眩しいため、反射的に目をつぶった。  時計を見る、7時50分。家を出るまでには、まだ少しが時間ある。よって、二度寝をすることにした。  ああ〜、至福のひととき。布団の中でもぞもぞしているこの時間がたまらなく好き。こういうときに、時間がいかに大切か実感できる。 「裕也〜」  どこからか聞き慣れた声が聞こえてくる。 「裕也〜、朝だよ〜」  これが幻聴でないなら、瞳の声だ。  でもまだ起きるには早い時間。もう一眠りしようっと。  ………。 「裕也! 学校に遅れちゃうよ!」  遅れる? だってまだ、8時にもなっていな……。 「!?」  時計の針は8時10分を指していた。普段だったら、もうとっくに家を出る準備をしている時間だ。 「いま行くよ!」  ベッドから飛び降り、素早くパジャマを脱ぎ捨てる。制服のズボンを履き、新しいシャツに手を通し、着替えを完了させる。  教科書とノートを鞄に詰め込みつつ、部屋を後にした。  急いで階段を駆け下りる。途中ブザーがうるさく何度も鳴った。  せっかちだなぁ。……僕が寝坊したせいなんだけどね。  玄関の扉を開けると、瞳が仁王立ちをして待ち構えていた。 「もう、さっきから何度も呼んでたのに」  どうやらご立腹のようだ。それも当然。こんな遅刻ギリギリの時間になって、ようやく起きたのだから。 「ごめん、寝てた」 「はぁ……。キミは眠り病なの? いつもそれじゃない」 「そんなことないよ、この前はちゃんと間に合ったでしょ」 「あれを間に合ったっていうのかなぁ?」  怪訝そうな顔で、僕のほうを見る。 「……すいません、今度からはちゃんと起きます」 「だと、いいんだけどね」  やっぱり信じていない様子。むしろ遅刻常習犯の言葉を信じろ、というのに無理があるのだが。 「んじゃ、行こうよ」  そう言いながら、靴べらを使って靴を履く。  瞳の手をとり、学校の方角へ向かって駆け出す。  途中公園の中を通り抜ける。ここから通ったほうが近道だからだ。 「そうそう、この間うちのクラスの佐藤くんがさぁー」  瞳の恒例のおしゃべりタイムが始まる。話題はクラスの人間関係についてのようだ。 「亜美に告白したみたいなの」  いつの時代も、この種の話は尽きることはない。ひとは噂話と他人の悪口は大好きな生き物だから。ちなみに瞳のあだ名は、歩くワイドショー。 「……それで結局フラれたわけなんだけど……って聞いてる?」 「ん? ああ、聞いてるよ」  ぜんぜん聞いてなかった。 「やっぱり裕也もそう思うよね」 「なにが?」 「女は顔じゃないってこと」 「そうだね、僕もあんまり気にしないほうかな」  ごめんなさい、ウソです。思いっきり気にします。面食いです。 「とか言って、実はすごく気にするんじゃない? 好きな芸能人が浜崎鮎だし」 「うるさいなぁ」  ……図星。  こういうところは、妙に鋭いんだよねぇ。  うちのガッコは、小高い丘の上にある。そのため毎回この長くてきつい坂を登らなければならない。正直言ってかなりしんどい。 「はぁはぁ……」  立ちくらみを覚え、一瞬目を閉じる。 「なーに息切れしてんの。男の子でしょ、がんばりなさい」  目を開けてみても、この悪夢のような長い坂は続いている。 「そんなこと言ったって、はぁはぁ……」  体中から汗がにじみ出る。体力を消耗したせいか、足元がふらつく。早くも力を使い果たした感じだ。  ちなみにガッコが終わるまであと7時間ほどある。先は長いッス。 「あちゃ〜、ホント体力ないよね裕也って。っていうか、それ以前に男らしさとかが欠けてるみたいな」  はい、よく言われます。というか、かなり言われ慣れています。  でもやっぱり慣れていても、あまり気持ちのいいものではない。 「裕也に少しでもワイルドさがあればいいんだけど。まっ、無理な話だね」 「……悪かったね、男らしくなくて。どうせ僕は女々しいですよ」 「そういうこと言うから、余計に女々しいって言われるんだよ」 「………」  かなり悔しいが、事実そのとおりなので反論の余地はない。  ようやく前方に校門が見えはじめた。坂を登りきり、校門前まで辿りつく。 「疲れた、はぁはぁ……」 「ほらもう少しだよ、ファイト!」  体中の残りの気力を振り絞る。 「ぜぇぜぇ……」  一歩、二歩、三歩。  ゆっくりと足を前に踏み出す。ゆっくりマイペースに。  息切れになりがらも、ようやく校門をくぐる。 「おめでとう! パチパチパチ」 ……なーんか人を小馬鹿にしてるような。というか、明らかに馬鹿にしている。 「……馬鹿にしてない?」 「そんなことないよ〜。裕也にとっては、校門まで行くのも一仕事だからねぇ」 「まるで僕が、まったく体力がないみたいじゃないか」  ぜぇぜぇと肩で息をしながら言う。 「えっ、違うの?」 「……はいはい、その通りですよ」  ため息を吐きながら、空を見上げた。空はどこまでも青く澄み渡っている。どこまでも遠い遠い青。  陽光が首筋を焼き続ける。ここ最近の気温は暑さを増す一方だそうだ。  さらに顎を上げてその先を見ようとするが、光がまぶしくて何も見えない。  瞳の髪が、肩の上でそよ風に揺られている。そのショートカットの髪型が、瞳によく似合っていると思った。  夏の熱気を含んだ風が、僕の体を優しく包み込む。生暖かさがどこか心地よかった。 「なんとか間に合いそうだね」  言いながら、ゆっくりと瞳のほうに振り向く。 「うん」  僕たちは校舎へむかって歩きだした。  これから始まる、長い長い夏への第一歩。 **************************************** というわけで、以上でございますぅ。 いかがだったでしょうか? これはもともと、いま作っているADVのゲームテキストを小説(もどき(^^;))用に書き直したものです。一応まぁ出だしはこんな感じかと。 ……もっと文章力つけたほうがいいッスね(汗) 煮るなり焼くなりお好きにどうぞ(笑) 2002/1/1   眠気をこらえながら Written by J